乃梨香の放課後
――6
翌朝。
そこには当然いない乃梨香の机には、昨夜の反省を楽しんだであろう男子生徒たちが群がり、会話を広げていた。
「昨日の乃梨香ちゃんの反省、凄かったな」
「まさか、半分もクリア出来ないなんてなぁ。
スタート前は、あんな強がった顔してたのに」
会話の内容は当然乃梨香のこと。
話は昨夜の痴態を経由して、反省期間そのものについて移る。
「なぁお前たちどんなカード貰った。
レアなのあったか?」
「いや全然。
LEVEL1とか2のカードばっかりだぜ。
交換しようぜ」
どうやらカードはランダムに配られているらしい。
そしてカード本来の効力や自らの性癖などを汲みして、いらないと思えるカードはトレードする。
昨晩から今朝までの短い時間だが、生徒の中で簡単なルールがすでに確立しつつあった。
「まぁこんな弱っちいカードばっかりじゃ、乃梨香ちゃんを脅すことも難しいかもしんないな」
「まさか。
昨日の奉仕カードもLEVEL1だったらしいし、貞操帯の刺激に慣れない当分の間は使えると思うよ」
へらへらと笑い、今後の成り行きを思考する男子生徒の会話は、ホームルーム直前まで続いた。
「みなさんご存知の通り、昨晩から柴谷乃梨香さんの反省期間が始まっています。
反省期間の終了時期は本人の頑張り次第、ということにはなりますが、学園の方でもできる限り奉仕イベント等でサポートしていきますので、みなさんもカードの出し惜しみ等ないように注意してください」
担任からの朝礼は簡潔に終わった。
説明しなくとも、男子生徒なりにゲームを面白くしていくだろうとの学園の考えがあるのだろう。
もっとも、一番この反省期間が終わって欲しくないのは、乃梨香を溺愛する担任であるのだが、自分が貰ったカードがいささか弱い物であったり、そのカードを最初に使い、もう楽しみがあまりないことに言葉数が少ないのかもしれない。
こうして、乃梨香のいない学園の授業が始まった。
乃梨香が次に姿を表すのはいつなのか。
どのタイミングでどのカードを使うのか。
普段の授業より、生徒の思考は散漫になっていた。
普段行っている女子生徒へのいたずらも、この日ばかりは数えるほどしか行われなかった。
羞恥のない授業に笑顔の見える女子生徒と思いきや、その顔は普段より冴えていなかった。
「はぁ…」
亜美は苦悩していた。
授業中の机にあるのは教科書とノートと筆記具。
その中心にぽつんと置かれているのは、銀色にパックされたカードである。
カードを配られたのは男子生徒だけではない。
聖女学園の担当教師や女子生徒全員に均等に配布されていた。
男子生徒は配布された瞬間に封を解いて楽しんでいたが、亜美を含む女子生徒はいまだ誰も開封していない。
無論、ランダムであるが故に、何が入っているのかもわからない。
もし、乃梨香をさらに苦しめるようなカードが入っていたら……。
その考えが、昨晩から亜美の頭の中をグルグルと駆け巡っている。
それが男子生徒にバレて、「よこせ」と言われたら、自分はどうすればいいのだろう。
そもそも、乃梨香が反省室に入れたれたのは自分が原因。
かばった乃梨香は、何一つ悪くない。
男子に敬意を払う考えと、親友である乃梨香。
銀色のパックを目に亜美の心は揺れていた。
文章:橘ちかげさん
加筆・修正:ロック
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