第106章



 放課後、由紀は瑞穂とともに帰路についていた。
 ようやく、破廉恥な三角棒の餌食から逃れ、校舎の外に出たところである。
 涼しい風が、火照った頬に気持ちがいい。

 そのとき、由紀と瑞穂の後ろに近づく4人の男子生徒の影があった。
 そしてその影が素早く2人に駆け寄り、二手に分かれる。
 その影のうち2人の男子生徒は、後ろから由紀と瑞穂のスカートのウェストに手をかけ、ホックを外してファスナーまであけてしまった。
 残りの2人の男子生徒が、素早く由紀と瑞穂の前に回り込む。
 その手には、カメラが構えられていた。
 ホックを外されファスナーまで下ろされた2人の少女のスカートは、何の抵抗もなくハラリと足元まで落ちていく。
 制服の下に下着を身に着けることを許されていない少女たちの下半身は、その瞬間に女の子が決して人目に晒してはいけない大事な部分を、剥き出しにされてしまう。
 あまりに突然の出来事に、由紀も瑞穂も即座に反応することができずに呆然とした表情を浮かべてしまっている。
 その間に、2人の少女の前に回り込んだ男子生徒が、構えたカメラのシャッターを連続して切っていく。
 そのカメラのレンズには、由紀の産毛ひとつ生えていないツルツルの割れ目が、そして瑞穂の淡い叢に覆われた柔らかそうな下腹部が、太陽の光を浴びて輝く様が捉えられている。
「「きゃーーーーーっっ!!」」
 2人が悲鳴を上げて両手で股間を隠しながらしゃがみ込むまでのわずか1秒足らずの間に、既に2人の男子生徒たちは10枚以上の写真を撮っていたのだった。
「へへー、2人のオマンコばっちり撮っちゃったよ」
「由紀ちゃんのアソコを撮ったのは初めてだよな。
 記念に、1枚プレゼントするからね」
 2人のセミヌード写真撮影に成功した男子生徒たちは、楽しそうに話していた。
 セミヌードとはいっても、衣服を身に着けているのは上半身だけ、最も恥ずかしい部分は露になっているのだから、ある意味全裸よりも恥ずかしい格好である。
 そのあまりに恥ずかしい言葉を耳にした由紀は、顔を真っ赤にして
「いやぁーーーっっっ!!」
 と叫びながら、無意識に自分のあられもない姿をカメラに収めた男子生徒に向かって手を振り上げた。
 その瞬間、
「だめぇーーー!!」
 瑞穂が、自分の下半身が剥き出しになるのも構わずに、叫びながら由紀の振り上げ、今まさに男子生徒の頬を平手打ちしようとしていた腕に飛びかかってしがみついた。
「きゃぁっ!」
 突然瑞穂に飛びかかられた由紀は、バランスを崩して、2人そろって地面に転び回ってしまった。
 上半身にはセーラー服を身に付けながらも、下半身は素っ裸というあまりにも恥ずかしすぎる姿で、2人の美少女が腕を絡ませながら地面に倒れている。
 その姿を見た男子生徒は、改めてその破廉恥な2人の姿もカメラに収めたのだった。
 そんな男子の様子に気がつきながらも、瑞穂は、
「だめ……男子に手を上げちゃ、ダメなの……」
 と小さな声でつぶやきながら、必死に由紀の腕を掴んで離さないのだった。

 ようやく、自分たちを恥ずかしい目にあわせた男子生徒が立ち去り、瑞穂と由紀が、自分の足元に落ちているスカートを身に付けて服装を正したところで、瑞穂は由紀の目を見詰めながら口を開いた。
「由紀さん……ここでは、男子生徒に手を上げては絶対にダメなの……。
 もし、そのことが先生に伝わったら……いえ、必ず先生に伝えられて、わたしたち女子生徒は罰を受けることになるの。
 場合によっては、反省室に入れられることもありますわ。
 ですから、どんなに恥ずかしい目にあわされても、逃げたり抵抗したりすることはいいけど、絶対に手を出しちゃダメなんです……」
 瑞穂の、さっきの行動の意味がようやく由紀にも理解ができた。
 瑞穂は、由紀を助けてくれたのである。
 もし、あのとき瑞穂が止めずに、由紀が男子の頬をひっぱたいていたら、由紀の身にとんでもない罰が降りかかるかもしれなかったのだ。
「あ…ありがとう、瑞穂ちゃん……」
 由紀は、自分を救ってくれた友達に、心から感謝の言葉を告げた。
 

 そんな2人の少し前を、さっそうと歩いていく少女の姿があった。
「あ…、結衣香さん……」
 瑞穂が小さくつぶやく。
「え、あの人?
 うわぁ…、きれいでかっこいい……」
 由紀も、瑞穂につられて見詰めた先に映った少女の姿が、まぶしいぐらいに印象的に心引かれた。

 …と、そのとき、瑞穂が結衣香と呼んだその少女の周りに、2人の男子生徒が寄っていくのが見えた。
 結衣香の後ろから近づいていく。
 男子たちの手が、結衣香のスカートに伸びていた。
 その動きは、先ほどの由紀たちと同じように、結衣香のスカートをずり下ろしてやろうという意思が浮かんでいる。
「あっ!」
 由紀と瑞穂は、その男子たちの意図を後ろから見て、はっとした。
 しかし、もう男子たちの手は結衣香のスカートに触れる寸前であり、もはや声を上げても間に合わない。
 スカートが男子の手にかかる……由紀も瑞穂もそう思ったその瞬間、結衣香の両手が、左右後方から伸びてくる男子たちの手首に、すっとあてがわれた。
 そして、由紀たちが瞬きをする間に、事態が完全に逆転していた。
 結衣香のスカートに伸ばしたはずの男子生徒たちの手は、そのまままるで風に流されるように軌道を変えられ、空気を掴むように空振りをしたかと思うと、その勢いのままに男子生徒たちの身体が宙を舞ったのである。
 由紀と瑞穂が見たものは、優雅に流れるような体捌きを見せ、地面に倒れる男子生徒たちを見下ろす結衣香の姿だった
「…す、すごい……」
 由紀が、いまだかつて見たことがなかった、聖女学園の中で女子生徒が男子生徒を完全に打ち負かした瞬間だった。
 転ばされた男子のひとりは、背中をしたたかに打ちつけたらしく、文句を言おうにも声が上がっていない。
 もうひとりの男子は、腰を打ちつけながらも、身体を起こして文句を言った。
「おい、ちょっとひどいんじゃないか?
 このこと報告したら、ただじゃすまないぞ」
「好きにしたらいいわ。
 あなたの汚らわしい手で触れないでくれる?」
「ふんっ……」
 その男子生徒は、そのまま目をそらして歩き去っていく結衣香の姿を横目で見ていた。

「み、瑞穂ちゃん……あの…結衣香さん……大丈夫なの?」
「え…えぇ……多分……。
 あの方でしたら、大丈夫ですわ。
 三条院結衣香さん、3年生で生徒会長よ」
 瑞穂は、結衣香の凛々しい姿を見詰めながら、小さな声で答えた。
「え、あの人が生徒会長!
 へー、すごい……」
「あの人が、生徒会長でいてくれるおかげで、辛うじて、わたしたち女子生徒が守られているの」
 瑞穂は、どこか誇らしげに、由紀にそう説明する。
「そ、そうなの?」
「そうよ……、実はわたしも生徒会の役員を任されているの……会計なんだけど」
「わっ、すごい、瑞穂ちゃん生徒会役員をやっていたんだ!」
「す…すごくないよ……。
 だって……、生徒会っていっても、女子役員は……その…は、恥ずかしいこと…ばかり……だもん」
「……そ、そう…なんだ……ごめん……」
「ううん、でも、結衣香さんだけは違うの。
 結衣香さんだけは、生徒会の中でも、頑張ってる……なんとか男子たちの横暴を食い止めようと……女の子たちのことを守ろうと……」
「そうなんだ…」
 由紀は、今、目の前で大立ち回りをしたとは思えないほど自然に歩いていく結衣香の後姿を見ながら、自分も、あんなふうに強くなりたい……そう思った。

 瑞穂は、結衣香の後姿を見詰める由紀に、説明を続ける。
「結衣香さんは、生徒会長に立候補してなったの。
 うちの学校では、生徒会長は女子がやることになっているんだけど……、もし、立候補者がいなかった場合は推薦…というか、指名されるの。
 立候補で生徒会長になった場合には、一応、手続きは難しいながらも拒否権が認められるけど、指名で生徒会長になった場合は、その生徒会長には一切の拒否権が認められない決まりになっているのよ。
 結衣香さんは、わたしたちを守るために、自ら立候補して生徒会長になったの」
「…………」
「もちろん、この学校の生徒会長は……とても普通ではないわ。
 生徒会そのものも……。
 でも、そんなわたしたちを支えて励ましてくれるのが、結衣香さんなの」
「そっか……、すごい人なんだね」
「えぇ、とっても…」
 聖女学園の生徒会の実情を聞かされ、絶句してしまった由紀だったが、そんな中で頑張っている結衣香の凛々しい姿が目に浮かぶようだった。
 先ほどのように、男子生徒に対しても毅然とした態度で臨む姿には、憧れを感じてしまうのだった。
「そして、生徒会長には、ひとつの特権があるのよ。
 普段の学園生活において、教師以外の人からの指示について、拒否および抵抗する権利があるの。
 いろいろ制約があって、それほど強い効力はないんですけど、結衣香さんはそれをうまく使って、自分の身と私たちのことを守ってくれているわ。
 もともとは、生徒会長にだけ与えられた拒否権だったのですけど、規則の中にその拒否権の効力を生徒会長だけに制限するという言葉が明記されていなかったらしいの。
 結衣香さんは、その規則の不備を逆手にとって、拒否権を私たちにも行使してくれて、いろんな場面で助けてくれているわ。
 だから、さっきのような些細なことで、結衣香さんが罰せられることはまずありませんから、心配しなくても大丈夫ですわ」
「そ、そうなんだ!」
 由紀は、少し明るい表情になった。
 この女の子にとって希望の光もなかったかに見えた聖女学園において、男子生徒の魔手に屈せず、立ち向かっていくことのできる女子生徒がいるということが、ひとつの救いのようにも思えたのである。
 そして、自分たちにも救いの手を伸ばしてくれている。
 そんな女子生徒が、先ほどの颯爽とした先輩であることを思い返して、由紀の心にも何か温かいものが広がってきたのである。


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