人通りの少ない夜道を、セーラー服を着た清香が歩いている。 清香の前に立ち塞がる背中が映った。革ジャンを着た大柄な男が二人。それを見て、清香が一瞬、脅えた表情を浮 かべ、視線を逸らす。 男たちが徐々に清香に近づいていく。清香が踵を返して遠ざかろうとするや否や、男たちが彼女の真ん前に迫り、そ の手がセーラー服の胸元にかかった。 スローモーションで生地が破れ、トリッキーなギターの音が鳴り響く。 清香は、なんとか男の腕をすり抜け、全力で駆け出した。 ビートを効かせたロックナンバーが流れる中、夜の街を駆ける清香。彼女が身にまとっているのは、あちこちが破れ たセーラー服だ。 何度も後ろを振り返りながら逃げる清香の後を、革ジャンを着た凶悪そうな男たちが数人で追いかける。 明るいところへ逃げた方がいい、そう判断したのか、清香は通りの先に見えるネオンサインに向けて走って行く。 男の手がスカートにかかった。ホックが飛び、スカートがずり落ちる。 転びかけた清香は、スカートをあきらめることで、紙一重のところで追跡者をかわした。 もうすぐ大通りだ。 通りに飛び出す清香…。 「カット!」 東風平の声が響いた。これはメイキング版の映像である。 どこかの繁華街でロケをしているらしく、照明やカメラを構えたスタッフの回りを、通りがかりのやじ馬が、十重二十重 に囲んで、撮影を見物している。 「よく警察から苦情が来なかったもんだな。」 「この通りは、車は夜間通行禁止になるんですよ。」 あきれたように言う十李に、東風平がさらりと答える。 「清香、もうちょっと表情にひねりが欲しいなぁ。」 と、これはモニターの中の東風平。 「はい…」 答える清香のセーラー服は破れ、白い肩もブラジャーも露出している。下半身はパンティしか身につけておらず、スラ っと伸びた白い脚が、夜の街を背景に生々しく浮かび上がっていた。やじ馬たちの視線を気にしているのか、どことなく 落ち着かなげだ。 「ほら、撮影に集中して。さあ、もう一度、大通りに飛び出して来るところを撮り直すぞ。」 曲がり角に設置されたカメラの映像に切り替わる。 清香が、無残に裂かれたセーラー服の胸元を押さえながら、必死の表情で道路に飛び出してくる。 「カット!畜生、今やじ馬が横切ったぞ、おい、しっかり交通整理しとけよ!」 東風平の怒鳴り声がして、またもや撮り直しになる。 こんな調子で、清香は、何度も何度も、半裸で大通りに飛び出すシーンを繰り返す。最後は息を切らし、泣きべそを かきながら撮影する羽目になった。 やっとOKが出ると、次は大通りを駆け抜けるシーンだ。 清香を追いかける男は徐々に増えていき、セーラー服に何度も手が伸びては、布地を裂いていく。 ついにブラジャーが弾け飛び、清香は両手で胸を庇いながら逃げる。彼女を追う人数は今や数十人になっていた。 ビルの谷間に駆け込む清香、しかし、それがまずかった。 目の前は行き止まり。無情なコンクリート塀が清香の行手を遮った。 エンディングは、パンティ一枚になった清香が地面にペタンと座り込み、周りを取り囲む背の高い男たちを、脅えた上 目使いに見上げるシーンで終わった。それは、男の嗜虐心をこのうえなく煽る映像だった。 「ううむ…、性犯罪を誘発しないと良いがな…」 十李が思わずそんな独り言をもらした。 画面が変わり、雑誌のような物をパラパラめくる清香。それは、ウエディングドレスのカタログだった。 「ウエディングドレスは、やっぱり、女の子の憧れですね。」 うっとりした様子で清香が言う。 そして、例のフィッテイング・ルームから登場した清香は、純白のウエディングドレスを着ていた。 プロモーション映像が始まった。賛美歌を思わせるパイプオルガンの前奏、映像も教会のようだ。正装をした男女が 席についている中を、ウエディングドレスを着た清香が、花婿と手を組んで、歌いながら歩いてくる。曲のタイトルもずば り『ヴァージン・ロード』だ。 祭壇の前に跪く清香。目を閉じて歌う彼女の頭上にポツリ、ポツリと雨が降る。 いや、どうも雨ではないようだ。白濁した液体が彼女の髪やベールに落ちた後、粘りけをしめして、ゆっくりと流れ出 す。 白い雨の量は次第に多くなり、歌い続ける清香の髪に、顔に、ウエディングドレスに注がれる。 「まさか、あれは…」 十李の問いに、東風平が答える。 「ファンをドキッとさせる演出で、半透明の乳液を垂らしたもの…、と公式には説明します。」 撮影スタッフが一斉にニヤニヤ笑いながら、硬い表情でディスプレイを見ている清香に視線を注ぐ。撮影の時のこと を思い出した清香は、惨めになって目に涙を滲ませた。 ウエディングドレスを着た清香が、祭壇の前で手を組み、目を閉じると、正面に誰かが立つ気配が感じられた。 目を開けてみると、目の前に黒々とした肉棒があった。それは太く、そそり立っている。結婚式の参列者役で集めら れたエキストラの男たちが彼女の周りを取り巻き、タキシードのチャックを開けて男根を突き出しているのだ。 「いきなり顔にかけるんじゃないぞ。そうだ、祭壇に上れ。」 東風平がバチ当りな指示をする。数人の男がセットの祭壇の上に並んで立った。全員、立ち小便でもするように屹立 する男根を剥き出しにし、右手で握っている。並んだ肉棒を目にして、清香の目が見開かれた。 「い、いや、やめて!」 清香は立ち上がって逃れようとする。 「あ、清香ちゃん、そのまま、そのまま…」 数人のADが清香の肩や腕を掴んで、逃げられないよう押さえた。 男たちは、剥き出しにした肉棒の先を清香の方に向けて、一心に擦っている。やがて、ペニスは次々にビクンビクンと 首を振りながら、放物線を描いて精液を噴き出し、ひざまづく清香の上に降り注いだ。 「ああぁ…」 悲しげな声をあげる清香に男の生臭い体液が浴びせられた。清楚なベールを汚し、蜘蛛の糸のように髪に貼り付い ていく。 男たちは次々に交替して祭壇の上に立ち、その度に新たな精液が清香の上に降り注ぐ。ディスプレイに映し出された メイキング版は、その様子を一部始終映し出していた。 「清香、ここは歌いながら白い雨を浴びるシーンだ。2番の歌詞から口ずさむんだ。」 東風平の指示が飛ぶ。撮影を早く終わらせたい一心で、清香は歌い始めた。歌っていると、辛さが少しましになるよう な気がした。その間にも男たちは、入れ替わり立ち代わりして、清香に精液を注ぎかけた。 「よし、エンディングだ。」 花婿役の男が清香の前に立った。 男は肉棒の先を清香の顔に向け、さすり始めた。 「い、いや、やめて!」 その意図を悟った清香が恐怖に眼を見開き、激しくもがく。 「おい、暴れるとNGになって、最初からやり直しだぞ!」 その言葉に、清香の動きがピタッと止まった。もう一度最初からさせられるぐらいなら、覚悟を決めた方がマシだと思 ったのだ。 カメラマンが正面から清香を狙う。 ほどなくして、肉棒から白濁液が清香に向かって放たれた。 「うっ!」 短い呻き声をもらして、清香が固く目を閉じる。男の狙いは見事に命中し、彼女の顔は白い液にまみれる。 画面を見ていた清香は、青臭く、ネバネバした精液が顔中に張りついた気持ち悪さを思い出して、身震いした。 「これは、さすがに、ちょっと可哀相じゃないか…」 大量の精液を浴びて泣きじゃくる清香を見て、十李が眉をひそめて感想をもらした。 「最後の曲には…、衣装はいらないの…」 そう言って清香が、恥ずかしそうに笑う。 しっとりしたピアノの前奏が流れ、一面、色とりどりの花が咲き乱れる広い草原が映し出された。空は、雲一つない青 空だ。 草を踏み締める裸足がアップで映り。清香の声が伸びやかに響く。 生成りの清楚なワンピースを着た清香が、草原を歩く。やがて、両手を肩越しに背中に回したかと思うと、スルリとワ ンピースが肩からずり落ちた。 清香は歌いながら、ワンピースを脱ぎ、ブラジャーを外す。 乳房が露わになるかと期待したスタッフが身を乗り出したが、ギリギリのカメラワークで乳首までは映ることがなかっ た。 ついにパンティも脱いで、広々とした草原に立つ清香。一糸まとわぬ姿なのだが、胸から上だけを撮ったり、背中から 撮ったり、清香が手で隠したりするため、乳首や下腹部が映ることはなかった。 「うーむ、見えそうで見えない…」 そう言う十李に向かって、土本が苦笑しながら言った。 「社長、曲も聴いてくださいよ。これ、結構、自信作なんだから。」 地球の息吹に抱かれて 愛を感じられたら 私たちはもっと 大きな愛を紡げるだろう 『地球の息吹』とタイトルされたメッセージソング、そのスケールの大きな歌詞とメロディを、清香は完全に歌いこなして いる。もともと、ボーカルだけで勝負できるぐらい、際だった歌唱力の持ち主なのだ。 「なるほど、たしかに良い曲だ。」 バンドマン出身の十李の耳は確かだ。だからこそ、トーリ・プロは小規模のプロダクションでありながら、Jポップをヒッ トさせるノウハウが十分でないATプロと連携して成功を納めている。 「それじゃあ、スペシャル版の方をお見せしましょう。」 東風平の合図で、再び『地球の息吹』が頭から始まった。美しい草原を歩き、歌いながら服を脱いでいく展開は全く同 じだが、カメラアングルは全く違っていた。 ワンピースの両袖を抜くと、白いブラジャーに包まれたバストが見えた。真ん中にピンクのリボンがついた可愛いブラ ジャーが清香の清純さを引き立てる。 少し身をかがめて、足の方からワンピースを抜き去る。ブラジャーとお揃いのピンクのリボンがついたパンティーが出 てきた。太ももは白く、両脚はスラリと伸びている。 清香が張りのある声で歌いながら背中に手を回し、ブラジャーのホックを外す。フレーズの切れ目のブレスに合わせ て、ブラジャーに押し込まれていた胸乳がプルンと波打った。 「ほおぉ…」 こぼれ出た双乳の若々しい張り詰めぐあいに、会議室にいた男たちが一斉にため息をもらす。素晴らしい球形を示 す瑞々しい膨らみも、その尖端のピンクの蕾も、ディスプレイに映し出されていた。 本編では、手の動きや風になびく服、地面に落ちる布という間接的なイメージでの表現が多かったのが、このヴァー ジョンでは、清香が歌いながら、着ている物を一枚一枚脱いでいく様子が、余すところなく映し出されているのだ。 「いよいよパンティーだな…」 十李が誰に言うともなく口にした。 曲は間奏の終わりに入っていた。清香はパンティーに手をかけ腰から下ろしていく。 ついにパンティーが足首から抜かれた。スラリとした脚だが、膝から上は徐々にむっちりとした肉づきを示し、太腿は すでに女の色香を感じさせる。淡い繊毛がなだらかな下腹部に薄いかげりを作っていた。 画面を見ながら、男たちはチラチラと目の前にいる清香を見やる。視線を感じた清香は、唇を噛んでうつむいてい た。艶やかな栗色の髪から可愛い耳たぶがのぞき、真っ赤に染まっているのがわかる。 映像の方は、全裸で胸と下腹部を隠しながら、草原を歩いて行く清香が映っていた。 そして、リフレイン。清香の両手が大きく開かれ、一糸まとわぬ姿が画面に映し出される。 「おおっ!」 画面を食い入るように見ていたスタッフの中から感嘆の声が上がる。 両手を広げ、全裸になった体をゆっくり揺らすようにしながら、サビのリフレインを歌い上げる清香。見事な胸の膨ら みが静かに上下し、引き締まったウエストから、張り出したヒップにかけて流れるような曲線を見せている。 生まれたままの姿を隠しもせず、草原に立つその姿は、妖精か女神のように見えた。 ![]() 「さすが、東風平君、きれいに撮れてるね。これなら、こっちを公開してもいいぐらいじゃないか。」 「えっ、嫌です!」 上機嫌で言う十李に、清香が思わず抗議の声をあげる。 「そりゃあいい!」 「うん、いやらしくないし、話題性バツグンですよ。」 すっかり盛り上がるスタッフの中で、清香は一人オロオロと救いを求めるような視線を男たちに投げかけた。 「まあ、それは、今後のファンの反応を見て考えましょう。」 落ち着いた声でそう言ったのは、土本だった。プロデューサーとしての彼の権限は絶対である。清香はひとまず胸を 撫で下ろした。 「さあ、最後はインタビューです。」 画面が変わるのを見て、東風平が言った。 場所は、どうやらこの会議室のようだった。インタビューをするのは、声だけだが、東風平自身のようである。 「清香ちゃん、今回のプロモーション撮影どうだった?」 「たいへんでした。でも、ファンのみなさんに喜んでもらえる作品になれば嬉しいです。」 「結構、大胆なシーンもあったね。」 「そうですね、でも、どれも正真正銘の私です、ありのままの今の風見清香をファンのみなさんには、全部見て欲しいで す。」 「意味深な発言だね。これはビデオの内容に期待しちゃいますよ。」 「期待通りかどうか、わかりませんが、私はファンのみなさんにとって、妹であり、そして恋人でありたいと思ってます。私 は家族や恋人になら全てを見られてもいい…。ううん、見てもらいたいです。」 「清香ちゃんのファンは果報者だね。」 「だって、応援してくれる人がいるから頑張れるんですよ。私が成長するためには、ファンのみなさんの応援が必要なん です。」 「でも、初めは抵抗あったでしょう?いつからそう思うようになったの?」 「最近…かな。男の人を男性として見れるようになったから…かもしれません。私も早く女の子じゃなく女性として見て欲 しいって思いから…。少し背伸びしているかなって感じもしますけど。」 「お、今、つきあってる彼氏の影響?」 「えー、違いますよ。つきあってる人なんかいません。意識している男の人がいるとしたら、さっき言ったようにファンの みなさんですよ。」 「ふーん、まあ、そう言う事しておきましょうかね〜。でも、あの情熱的な歌唱力は、ますます磨きが掛かってきたようだ ね。」 「そうですか?ありがとうございます、そう言ってもらえると嬉しいです。」 「歌詞も相変わらず意味深だし。」 「以前は、もしかしたらエッチな事を想像している人もいるかもしれない、と嫌悪感を抱いた時もありました。でもそれ も、ひとつの愛情表現なんだって気づいたんです。私の大切なファンなら、その想い全てを受け止めようって。…でもま だ正直恥ずかしいですけど。」 「それ、撮影に使った衣装だよね。」 カメラが清香を嘗め回すように映す。それは『サイバー・ビート』で着ていた銀色のボディスーツだった。 「曲の後半では、もっと大胆なデザインになってたでしょ。これ、どうなってるのかな?」 画面に男の手が映り、清香の衣装に触れる。 「ファスナーが付いていて、外せるようになってるのか。ねえ、外してみてよ。」 「えーっ、ここでですか…」 しばらくためらった後、清香は立ち上がり、衣装に付いているファスナーを次々に開け始めた。胸元がお臍の下あた りまでくりぬかれ、胸の膨らみが半分ぐらい剥き出しになる。脇や背中が大きく空いた。さらに下半身のファスナーを開 くと、股間のVラインがギリギリまで狭くなり、お尻は完全に露わになってしまう 「オーッ!これは、大胆だぁ!」 カメラが嘗めるように清香を映していく。 「もう…、エッチ…」 真っ赤になった清香が、ジャケットを羽織り、すごい勢いで椅子に座り込んだ。 「今回のDVDではいろんな衣装が登場するね。初めの方はなかなか可憐で乙女チック、後半の衣装は、それもだけ ど、一転して大胆だね。」 「はい、私も自然に振舞うとまだ子供だなって思うところもあるし、大人の女性に憧れて、背伸びしたいと思うときもあり ます。その二つの面をビデオでは表現出来たと思っています。」 「それじゃ、最後に二つだけ質問させてね。気になってたんだけどさ、スリー・サイズいくつ?」 「…バスト84・ウエスト55・ヒップ86です。」 「やっぱり、公称より胸、大きくなってるね。スタイルも全体的にグラマーになってるし。育ち盛りだからかな?この分だと もう直ぐ朱美ちゃんといい勝負になるんじゃない?」 「エ〜、無理ですよ、私なんか。朱美ちゃん、すごくきれいなんですから。」 「では、最後の質問、清香ちゃん処女?」 「…ハイ、まだ…、経験は…、ないです…」 はにかんだような表情でそう言う清香を見て、土本がポツリと言った。 「そろそろ、考えようかな。ロスト・ヴァージン…」 「えっ!」 清香も含め、そこにいた全員の視線が土本に集中する。 「ちょうどスタッフが揃ってるんだ。これから、企画会議をやろう。清香のロスト・ヴァージンをどうするか。みんなで相談 だ!」 「ちょ…、ちょっと待ってください…」 半ばパニックになりながら、必死で叫ぶ清香を尻目に、土本の宣言が会議室に響いた。 「より刺激で、より根元的な実験。限界に挑戦するアイドル・プロジェクト。第二段階のスタートだ。」 |