乃梨香の放課後


 
 ――5

「それではこれより柴谷乃梨香の反省期間を始めます」
 担任が事務的にそれを宣言。
 しかし表情はすぐに変わる。
「さぁ柴谷さん、私は今残り2枚のカードを持っている訳だけど――必要かしら?」
 ニヤリと笑みを浮かべ、手に持つカードをチラチラと見せる。
 乃梨香にとっては全くの愚問である。
 当然、ないよりもあった方が今後の展開は楽になるに違いはない。
 しかしカードを獲得するためには、カードを読み込み、記載された指令を達成しなければならない。

 〜奉仕 1〜
 男子寮のコンセントの通電チェックを行う。
 別途のコンセントプラグを貞操帯に装着後このカードを読み込む。
 このカードを読み込み後1時間以内に奉仕が終了しない場合のみLEVEL5の振動と電流を流す

 今、この状況が楽しくて仕方がない。
 担任の心の奥底を、乃梨香はしっかりと理解していた。
 自分の絶望的な状況だとか、それに伴う優越感だとか。
 そして何より数秒後に発す言葉が分かっているから……。
 そう感じた。
「――お願いします」
 弱く低い乃梨香の声に、担任はきっとかすかな快感を感じていたに違いない。
「そうこなくっちゃ」

 男子寮の部屋数はおよそ60ある。
 カードに書かれている1時間以内を考えると1部屋1分。スプリントに長けた乃梨香の脚力をもってしてもギリギリといったところだろうか。
 当然脚を止めることなどしてはいけない。
 ただ淡々と、股下から伸びるコンセントを挿し通電を確かめる。
「それではただ今より、柴谷乃梨香の奉仕活動を始めます」
 男子寮にアナウンスが流れる。
 男子生徒は全員部屋で待機。
 必ず来るであろう乃梨香を待ちわびている。
「――ふぅ」
 緊張はしている。
 いつもの練習前のように屈伸。
 心を落ち着かせる様に深呼吸。
 きっと大丈夫。
 急ぐ脚力なら誰にも負けないはず。
「それでは柴谷さん、準備はいいかしら?」
 声に出たのは先ほどとは違う決意に満ちた力ある言葉だった。
「はい」
 担任がカードを乃梨香の股間にカードをかざす。
 貞操帯を着用する以外全裸の乃梨香に、負ける気持ちはなかった。

「スタートします」
 アナウンスと同時、若干フライング気味に走り出した乃梨香。
 ルール上、一直線に並んだ男子寮の扉は全て開いた状態である。
「失礼しますっ!」
 これもルール。
 入室の一礼は一瞬で終わり即座にコンセントへと向かう。
 快感は当然ある。
 歩くだけで気持ち良くなるよう作られているのだ。
 走り出した瞬間、秘部とアナルにむず痒い衝撃が走る。
「コンセントはココだよ乃梨香ちゃん」
「ずっと悶えててもいいんだよ」
 男子生徒の言葉は完全に無視して、コンセントを差し込む。
 それは長い工程の最初の1つのはず。
 しかし、乃梨香の顔は歪んだ。
「――んひっ……」
 完全に予想外だった。
 快感なんて考えない。
 淡々とやればすぐに終わる。
 そんなスタート前の決心を一瞬で砕くほどの衝撃だった。
「どうしたの乃梨香ちゃん。
 気持ちいいのかな」
「まだ最初の部屋なのに、凄い顔が火照ってるよ」
 10秒以上の通電チェック。
 きっちり頭で10数えてすぐに次へ行こう。
「……んひいいぃ!
 あっ、あくぅぅ――」
 快感に腰をガクガクと振る乃梨香。
 脳内に描いた理想は一瞬にして砕けていた。
 それから数十秒。
 コンセントを抜く作業すらできないくらいに快感を貪っていた乃梨香はついに、
「だ、ダメぇ……。
 イク、イっちゃうぅ……。
 んひぃぃ!!」
 未だ60分の1。
 スタートして2分と経たずして、乃梨香は反省期間初めての絶頂を迎えた。
「あーあ……イっちゃった」
「まだ最初の部屋なのに、身体がヒクヒクしてぐったりしてるよ」
 動けない。
 絶頂に弾けたときにコンセントは抜け落ち振動は止まっているものの、貞操帯の中に残るバイブに、未だ乃梨香の秘部とアナルはヒクヒクと蠢いている。
 そしてその余韻がさらなる快感を生む。
「っつぁぁ!!
 ま、また。
 ……っっくあっ」
 腰がビクリと動く。
 2度目の絶頂。
「あはは。
 全然ダメじゃん乃梨香ちゃん」
 男子生徒の笑い声。
 この後乃梨香は、さらに3度目の絶頂を反復して迎えた。

 乃梨香の腰が再び上がったのは奉仕活動の半分、30分が過ぎてのことだった。
 3度の絶頂後に失神。
 目が覚めたものの乃梨香の頭に奉仕の言葉は残っていなかった。
「……あれ…わたし……」
 起き上がる乃梨香に襲い掛かるのは、決して抜け落ちることのない貞操帯のむず痒い快感だった。
「……んっ」
 そしてその快感は、数十分前の記憶をあっさりとよみがえらせた。
 その一瞬に駆け巡る記憶は、理解と同時に乃梨香の顔面を蒼白させる。
 首をキョロキョロと振り室内の時計を探す。
「………間に合わない」
 蒼白な顔から出た言葉は、時計と今の自分を照らし合わせた素直な現状だった。
「30分も気絶するなんて乃梨香ちゃん敏感なんだね」
「触るのは禁止されてるから退屈で仕方なかったよ。
 それでもうリタイアなのかな?」
 横からは男子生徒の声。
 しかしその声は、乃梨香の頭の中には届いていない。
 まだいけるのか?
 刻一刻と迫るタイムリミットに、目覚めた直後の乃梨香の思考は付いていかない。
 ただその状況に反応できたのは、乃梨香の身体だけだった。
 ぐっと堪える脚は、時間に脅える少女の邪念を一瞬で振り払った。
 まだいける。
 特例の効力で得たものは早く走れる脚だけじゃない。
「失礼しましたっ!」
 乃梨香は勇み込んで部屋を後にした。

  1時間後、
「柴谷乃梨香の奉仕は終了できませんでしたので、これより規定に従い罰則を行います」
 最大級の振動と電流の制裁。
 乃梨香が倒れた13部屋目には多くの男子生徒が集まっていた。
「なんだ。
 半分もクリアできなかったのかよ」
「ぐったりしてるね。
 これからもっと凄いことが起こるのに」
 たった13部屋。
 乃梨香が快感に腰を振り、愛液を垂らしながら歩いた道は、ゴールの半分にも届かなかった。
 10部屋目を越えたときに腰が抜けた。
 それでも乃梨香は、顔から涙か涎か分からない何かを分泌しながら這って歩を進めた。
 1部屋目振りの気絶は、その3部屋後。
 最後になった通電チェックの際には、言葉にならない嗚咽を漏らし全身を痙攣させながら行った。
 全力を出し切った乃梨香に与えられるのは、罰則。
 大量の生徒に見守られる中、制裁が始まった。
「ぁくっっあ……くひっ!!」
 おそらく数十秒に1度は絶頂に達していたのかもしれない。
「ひぇぁっ、くっぁ……」
 貞操帯があるために中が見える訳でもないし、全裸の身体で乳首が責められている訳でもない。
 ただ機械的に悶え絶頂する乃梨香の姿を男子生徒はニヤニヤと見つめていた。

 奉仕の罰則終了は規定通り1時間後。
 反省室へと連れ返された乃梨香はベッドで気絶したままだった。
「まだLEVEL1の奉仕なんだけどな。
 この先どうなるでしょ」
 ニヤリと笑う担任は、乃梨香が獲得したカードをバインダーへとしまった。


文章:橘ちかげさん
加筆・修正:ロック


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